1. 田宮系猪犬の一番大切な「引綱訓練」

猪猟の実戦で犬を放したら帰ってこない、こんな猟犬では狩りどころではありません。この様なことが起きないように仔犬のうちから引綱訓練をします。

普段からの訓練で、写真のように犬を自由自在に操るのは仔犬のころから猟人(主人)の傍に置くことが目的になります。毎日仔犬に綱を付けて1キロ位を1時間かけて散歩します。住宅街でしたら、仔犬が3ヶ月位から車で移動し、人の少ない小道などで犬の名前を呼び散歩します。「仔犬を引く」のではなく、「仔犬に引かれる」ように行います。

 

始め3日位は歩かないので、引綱を持ってしゃがみ込み、仔犬が綱の長さ位歩いたら仔犬の動きに合わせて綱を伸ばします。ここまでは綱を引かないでください。出来たら褒める、声をかける、一口餌をやるなどが大切です。この時期には必ず毎日訓練する事、絶対に仔犬を叱らない、綱を引っ張ったりしないことは必須です。また一緒に走らせ「待て」で急に止める事も教えます。これは非常に大切になります。

 

このような初期訓練を生後6ヶ月までに行います。この訓練で覚えたことが実戦で活かせます。田宮系猪犬の訓練はこれだけで立派な猪犬に仕上がります。

2. 田宮系猪犬による実戦

訓練だけでは名犬に仕上げることはできません。猪犬を仕上げて猟場で思い通りに獲物を引き込めばどんな猪でも簡単に仕留められます。

 

仔犬の引き綱訓練がしっかりできたら、次は実戦訓練ですが、猪犬には「鳴き芸」、「噛み芸」といわれるものです。これは実践の繰り返しで猪犬が自分から編み出していきます。先導犬ならば、どんな調教師や猟師が「猪の頭から行けば危ないから足に行け」と教えても、頭や耳に噛みついて絶対に離しません。誰も教えないのに体を猪にピッタリ付けて自分を守ります。

 

鳴き芸も猟師が教えてできるものではなく、猪犬自体が持っている猪犬の天性です。これが名犬と言われる田宮系猪犬の特徴です。ここで猟師として猪犬に対してしなければならないことは、猪を必ず撃ち取ること、そして愛犬を褒めることで猪犬はどんどん成長します。猪を撃ち獲れず逃してばかりいると、追うだけの「追い犬」になってしまいます。

3. 猪の仕留め方

猪を見たことがありますか、薮の中などの猪が動かずにじっとしている時には猪を探しだせません。

 

それだけ猪は保護色で周りに溶け込んでいます。ベテラン猟師でも30m以上離れていると猪を探せません。そこで猪猟は猟犬の出番になります。猟犬の嗅覚は人間の1000倍以上といわれています。猪の臭いを即座に嗅ぎ分けます。

 

猪を感じた猟犬は猪に向かって(猪のいる方向を示して)吠えます。その先に猪がいますが、先ほどのようによほどベテランでなければこの時点で猪を見つけるのは難しいです。犬にほえられても猪はすぐには動きだしません。小さな猪ですと動き回るのもいますので、ここで仕留められる腕をお持ちの方は、人や猟犬の安全を確認した上で発砲してください。

 

犬の声を聴いて主人が近くに来れば、猟犬は猪に噛みつくために、30m~20mまで近づきます。ここで猪が動きますが鹿のように素早く逃げることはありません。鹿に比べたら比較的ゆっくり動きます。こちらに向かうことが多々ありますが、向かってくる猪の頭を狙って直ぐに打ってはいけません。20m先の猪の頭を狙ってもまず当たりません。猪突猛進という言葉にあるような直進しかできないというイメージは誤りで、急発進や急停止、急な方向転換もできます。また、飛ぶより潜り抜ける習性があり、20cmの隙間があれば成獣でも潜り抜けます。猪の走り方はよく見ると、頭をまっ直ぐにして走るのではなく、短い前脚と後ろ足を揃えて交互に動かすので太った体ですから頭を上下左右に振って走ります。

 

この猪も10m位に近づいたら大声を出して1発目を発砲します(10mなら当たると思いますが)もし外れてもこの声と銃声で左右どちらかに人を避けるように急に曲がります。ここが2発目の発射のタイミングです!首、胸(心臓)を狙います。弾が当たっても鳥のようにボトンと落ちるとか、コロリと倒れるものではありません。走ってきたスピードがあり20mから50m走る猪もいますが、弾が急所に当たっていれば走った後必ず仕留められます。猟犬が追いかけてくれますから、見失うこともありません。半矢にした猪でも血の臭いを嗅ぎ分けて猟犬が追いますので、探し出すことは難しくありません。10mの1発目で外して、まだこちらに向かってくれば、2発目を打ちますが、直ぐに自分の方で避けてくださいください、当たっていても直進してきます。

 

猟犬がこちらに向かわずに猪を追い詰めたら、猟犬は猪に噛みつきます。訓練した猟犬は猪の後ろ脚に噛みつきますから、近づいて、止め刺しを(至近距離で銃口を地面に向けて猪を狙い打ちます)します。猪犬が噛みつき暴れていますから、猟犬を打たないように相当近づいて刺さなければなりません。

 

これが猪猟の簡単な説明です。取れた獲物は持ち帰りますが、山奥で捕まえると、道路など下まで降ろすのが大変です、ベテランはそこまで考えて猟をします。

 

4. グループ猟の方法

グループ猟には、獲物がいる山などを(事前の情報収集が必要です、地元の方との交流が不可欠です)複数の猟師で囲います。この猟師を「タツ」(タツマという地域もある)といいます。タツを現代的に表現するならスナイパー。例えるならば、精鋭揃いの米軍シールズです。

 

自分の立ち位置(ポジション)を決めたら、そこから動いてはいけません。食事もしてはいけません。立ちションもいけません。(獣は臭いに敏感です人間の1000倍以上の鼻を持っています)声も出してはいけません。ひたすら獲物が来るのを待ち、自分のポジションに獲物が来たら必ず仕留めなければなりません。

 

昔の人もタツは「岩の前に立ったら岩になれ」、「大木の前に立ったら大木になれ」と言われていました。最近の猟では参加猟師も少ないのでタツが移動します。これを「移動タツ」といいますが、猟場をよく知り尽くしている人でないと、獲物と間違えて撃たれてしまいますから難しいです。

 

「こんな猟に参加するのは難しいなー」と思う初心者も、今のベテランといわれる人も最初は初心者ですから、「やりたい」と思う人が先に進めます。

 

タツが位置についたら、勢子(せこ=獲物の追い出し役)の出番!いよいよ猟が始まります!

 

タツの立ち位置(ポジション)がすべて決まれば、勢子が猟犬で獲物を追い出します。このタツの配置に時間が掛かることや物音を出すと、獲物が逃げてしまいます。初心者はまずこのことに気を付けましょう。

 

獲物を追い出す犬を使う人、この方を「勢子(せこ)」といいます。複数の勢子を束ね、猟犬を躾けられる方を「勢子長」といいます。この勢子長が仕切る猟犬で、猟の成果が決まります。

 

勢子長が猟犬を仕込みますが、企業や会社で人を育てるのも大変ですが、猟犬を仕込むのはそれ以上に難しい、ご自宅で犬を飼っている方でも、犬に自分の言うことを効かせるのは大変な苦労がいると思います。家庭で飼っている犬と猟犬は全く違う種類(種類は同じでもしつけが違います)です。

 

猪猟についてご紹介! 大物猟の中で鹿猟は猟犬の活躍がいまひとつです。鹿の足はとにかく速いです。車で追いかけないと追いついて付いていけないほど速いので、猟犬で追いかけて仕留めるというよりは猟銃の腕前に左右されることが多いのが鹿猟です。猟犬猟と一緒に猟を楽しむのは猪猟だと言えます。

5. 田宮系猪犬の仔犬の食事

猟犬餌は一日一回、市販のドックフードに、ビタミン剤やカルシュウム等栄養補助食品を加えます。獲物の臭いを覚えてもらうために、猪肉なども与えます。また訓練するための餌として、犬は甘いものが好きですので、嗜好品を何か決めて、訓練用に使います。

 

夏に山(現地)に連れて行って訓練すると夏場1時間運動ができる猟犬は、猟期の冬場では3時間動けますので、夏の訓練は大事ですが、薮の中は、もう少し後になってから行います。ベテランの猟犬がいれば、この猟犬に3匹の新人猟犬を付けて動き回ります。人間と同じようですね。

 

9月過ぎれば狩人と一緒に行動します。ここで現地踏査に参加してください、参加される方は、ここで犬の鳴き声と、犬の行動を覚えてください。猪を見つけたとき、猪を追いかけている時、猪を追い詰めている時、噛みついている時など。

 

猟期でないので猟はできませんが犬の訓練はできます。尚、日本の狩猟法では猟犬だけでの猟はできません。必ず猟銃および狩猟免許が必要です。狩猟免許の取得には時間がある程度かかります。猟期でない時に取得を目指してみてはいかがでしょうか?